事必帰正
郭錠煥(カクチョンファン)先生
お父様に会いたければ、まず署名しろ
ところが、当日午前、状況が完全にひっくり返りました。金起勲会長と趙晶淳(チョ・ジョンスン)会長など、数人の一行が、顯進様が宿泊している宿所に訪ねてきたのです。彼らはお父様からの伝言だと言いながら、「お父様のみ言葉に絶対服従するという署名をしなければ、お父様に会うことはできない」と主張しました。
顯進様は、「これは何か共産党の話か」「息子が父に会って言葉を交わすのに、何の署名が必要なのか」と彼らを追い返しました。
お父様がなぜ、一晩で考えを一新したのか、それが本当にお父様の意図なのかは分かりませんでした。この機会に、誰かが顯進様の署名を受けようとする意図は明らかでした。その日の会見の結果とは関係なく、必要によっていつでもこの署名を活用する魂胆であり、特に密かに準備してきた法的訴訟のために、それを何かの根拠にしようという腹づもりだったのでしょう。顯進様がそんな浅はかな手段を見破れないはずがありませんでした。
大陸会長を歴任した統一家の最高指導者たちに、「署名をもらって来い」と命じ、「お父様に会わずにそのまま帰るか、それとも持っているものを全てさし出すと署名してお父様にお会いするか、二つのうち一つを選択せよ」と迫った方は正に、お母様だったのです。
お父様の使者という人たちが、再び顯進様を訪ねて来ました。そして困った表情で、全く同じ内容だけを伝達しました。しかし顯進様は結局、署名しませんでした。
彼らが帰った後は何の連絡もないまま、一日が全て過ぎ去っていました。顯進様は結局、お父様に会うことをあきらめて、定男様の奉献式のためにニューヨークに帰る飛行機の便を予約しました。その時、金起勲会長から連絡が来ました。「お父様はしばらく外出され、顯進様からも近い場所に出て来ておられているので、直接会うのはどうか」という提案でした。顯進様は挨拶だけでもして出発できればと、お父様がおられる公共の場所に向かいました。
顯進様の挨拶を受けるお父様の表情は、明るくありませんでした。お父様は近いところにおられたお母様を呼ばれ、父母様は、しばらく休もうと準備しておいたホテルの客室に上がられました。
お父様との対話は1時間にもなりませんでした。対話を進める上での状況認識が余りにも違っていました。結局、顯進様が「今度またお伺いしたい」と申し上げ、その場を立とうとしました。その時、お父様は突発的に顯進様の服をつかんで放されませんでした。
「全てさし出すまでは、絶対にそのまま行かせることはできない! 」
全人類の救世主として来られたご自身の父親につかまれ、このような言葉を聞かなければならないことが、顯進様には耐えられない苦痛であり悲しみでした。ひと時もお父様を離れず、全ての時間をお父様のために捧げてきた立場であるにもかかわらず、余りにも変わり果てられたお父様に接しながら、お父様の目と耳を遠ざけた者たちに対する憤りがこみ上げてきました。顯進様は、とりあえずお父様を安心させて差し上げ、部屋を出てニューヨークに帰りました。